サンプリングと量子化 — アナログからデジタルへ

マイクが拾った「なめらかな波」を、コンピュータが扱える「数の列」に変える。その2つのステップ — 時間を刻むサンプリングと、高さを刻む量子化 — を動かしながら理解します。

1. 波を「点」で覚える — サンプリング

アナログ信号は時間的に連続ですが、コンピュータは一定間隔でしか値を記録できません。1秒間に記録する回数をサンプリング周波数 fs(単位: Hz)と呼びます。

下のデモで、点の間隔(fs)を狭くしたり広くしたりしてみてください。点だけから元の波を復元できる条件が見えてきます。

サンプリング実験 — 点だけで波を覚えられるか?
水色=元のアナログ波、白い点=サンプル、オレンジ=サンプル点だけから復元した波。fs を下げていくと、ある瞬間に復元波が別物になります(枠が赤くなったら危険域)。
POINT — ナイキストの標本化定理 信号に含まれる最高周波数を fmax とすると、fs > 2 × fmax でサンプリングすれば元の波形を完全に復元できる。この境界 fs/2 をナイキスト周波数と呼ぶ。
fs > 2 fmax CD の 44.1 kHz は、人間の可聴上限 約20 kHz の2倍+余裕、から来ている

2. 折り返しの罠 — エイリアシング

条件を破って fs ≤ 2fmax でサンプリングすると、高い周波数が偽物の低い周波数に化けて記録されます。これがエイリアシング(折り返し雑音)です。

身近な例が、動画で車のホイールが逆回転して見える現象。カメラのフレームレート(=サンプリング周波数)に対して回転が速すぎると起こります。

ホイールの逆回転 — 目で見るエイリアシング
カメラは 10 コマ/秒 固定
左=実際の回転、右=10fpsのカメラ映像。回転を上げていくと、5回転/秒(=ナイキスト)を超えた瞬間に映像が逆回転に見え始めます。10回転/秒ではなんと静止して見えます。
注意 — 録音前にフィルタを 一度エイリアシングが起きた信号から偽物の成分を取り除くことは原理的に不可能。だから実際のAD変換器は、サンプリングの前にナイキスト周波数以上をカットするアンチエイリアシングフィルタを必ず通す。

3. 高さを刻む — 量子化

サンプリングで時間を離散化したら、次は値の大きさを有限の段数に丸めます。これが量子化です。段数はビット数で決まり、n ビットなら 2n 段階。丸めによって生じる誤差が量子化雑音です。

ビット数と量子化雑音
理論SNR:
水色=元の波、緑の階段=量子化後、赤=誤差(量子化雑音)。1ビット増やすごとに段数が2倍になり、SNR は約 6 dB ずつ改善します。
SNR ≈ 6.02 n + 1.76 dB n = ビット数。CD の 16bit なら約 98 dB、ハイレゾの 24bit なら約 146 dB

4. まとめ — デジタル音声の設計図

一歩先へ — 実際のフォーマット CD は 44.1kHz/16bit、スタジオ制作は 48〜96kHz/24bit、電話音声は 8kHz/8bit(だからこもって聞こえる)。用途ごとに「どこまでの周波数と、どれだけの静けさが必要か」でこの2つの数字が選ばれている。