スペクトル入門 — 音を「周波数の成分表」で見る
同じ音でも、「時間の波形」で見るか「周波数の成分表」で見るかで、見えるものがまるで違います。音を周波数のメガネで見る道具 — スペクトル — に、スライダーとアニメーションで入門します。
1. 音の成分表 — 2つの見方は同じ音の裏表
お菓子のパッケージに「砂糖◯g、小麦粉◯g…」と成分表があるように、音にも成分表が作れます。それがスペクトル。「どの高さの純音(サイン波)が、どれだけ入っているか」を棒グラフにしたものです。
下のデモでは、低・中・高の3つの純音を混ぜて1つの波を作っています。スライダーで配合を変えると、左の波形と右のスペクトルが同時に変わります。
時間領域 ⇔ 周波数領域 — 同じ音の2つの顔
左=3成分を足した波形(オレンジ)と、うっすら見える各成分(水色=低、緑=中、紫=高)。右=同じ音のスペクトル。1成分だけ残して他を0にすると、波形がきれいなサイン波に戻るのが分かります。
複雑な波 = A₁ sin(2πf₁t) + A₂ sin(2πf₂t) + A₃ sin(2πf₃t)
この「どの周波数 f に、どれだけの量 A か」の一覧表こそがスペクトル
POINT — 横軸を読み替えるだけ
横軸が時間なら波形、横軸が周波数ならスペクトル。どちらも同じ音を表す2つの顔で、情報は互いに行き来できる。波形は「いつ・どんな形か」、スペクトルは「何が・どれだけ入っているか」が得意。
2. どんな波も、サイン波に分解できる
逆向きに考えてみましょう。一見ぐちゃぐちゃの複雑な波も、実は何本かのサイン波の足し算に分解できます。ボタンを押して、1本の波が3本の純音にほどけていく瞬間を見てください。
波の分解アニメ — 複雑な波をほどくと純音が現れる
オレンジの複雑な波から、水色(低)・緑(中)・紫(高)の3本のサイン波がゆっくり分離します。もう一度ボタンを押すと合成に戻ります。3本を縦に足すと、いつでも元のオレンジの波に一致します。
一歩先へ — フーリエの大胆な主張
1807年、数学者フーリエは「どんな(周期的な)波形も、サイン波の足し算で書き表せる」と主張した。ぐちゃぐちゃのノイズでも、人の声でも、だ。この分解を数学的にきちんと実行する方法がフーリエ変換 — レッスン05で正体を暴く。
3. 音の指紋 — 波形とスペクトルを見比べる
スペクトルは音の指紋のようなもの。波形ではどれも似たように見える音が、スペクトルで見ると一目で区別できます。ボタンで3種類の音を切り替えてみてください。
3つの音の指紋 — 純音・声っぽい音・ノイズ
上=波形(時間の顔)、下=スペクトル(周波数の顔)。純音は1本、声っぽい音は基音の整数倍にきれいに並ぶ線(倍音)、ノイズは全域にべったり。※すべて画面内で合成したデータです。
| 音 | 波形(時間領域) | スペクトル(周波数領域) | 聞こえ方 |
|---|---|---|---|
| 純音 | きれいなサイン波 | 1本の線だけ | 「ポーッ」という電子音 |
| 声・楽器 | 複雑だが周期的 | 基音+整数倍の線が並ぶ | 高さを感じる音 |
| ノイズ | でたらめで周期なし | 全域にまんべんなく | 「ザーッ」。高さを感じない |
注意 — スペクトルは「いつ」を忘れる
スペクトルは音全体をまとめて成分表にするため、時間の情報が見えなくなる。「ドの後にミが鳴った」ことはスペクトルだけでは分からない。時間×周波数の両にらみで見る道具(スペクトログラム)はレッスン07で登場する。
4. まとめ
- スペクトル=「どの周波数のサイン波が、どれだけ入っているか」を並べた音の成分表。
- 波形(時間領域)とスペクトル(周波数領域)は同じ音の2つの顔。互いに変換できる。
- どんな複雑な波もサイン波の和に分解できる — この主張を実行する道具がフーリエ変換(レッスン05)。
- 純音は1本、声や楽器は倍音の列、ノイズは全域 — スペクトルは音の指紋になる。