倍音と音色 — 同じ「ド」がなぜ違って聞こえるのか

ピアノとフルートが同じ「ド」を弾いても、まったく違う音に聞こえます。その正体は、基音の上に重なる倍音のブレンドの違い — つまりスペクトルの形。8本のスライダーで自分だけの音色を作りながら確かめます。

1. 倍音とは — 基音の整数倍の家族

楽器の弦や空気柱が振動するとき、実は1つの周波数だけが鳴っているのではありません。いちばん低い基音 f₀ と同時に、その整数倍の周波数 2f₀, 3f₀, … が一緒に鳴っています。これが倍音です。

fn = n × f₀ 基音が 220 Hz なら、倍音は 440, 660, 880, 1100 … Hz にきれいに並ぶ
倍音ミキサー — 8本のスライダーで音色を作る
上=合成された波形、下=いま作った音のスペクトル(オレンジ=基音)。基音だけ(他を0)にするときれいなサイン波、倍音を足すほど波形が複雑になります。波形は見やすいよう高さを自動調整しています。
POINT — 高さは基音、音色は倍音バランス スライダーをどう動かしても、基音が同じなら音の高さは同じに聞こえる。変わるのは音色だけ。つまり 音色 = スペクトルの形。「ドの音」という情報は基音が、「ピアノらしさ」は倍音の配合が担っている。

2. サイン波を積み上げて波形を作る — フーリエ級数

倍音を「決まったレシピ」で足していくと、驚くことに角ばった波形さえ作れます。のこぎり波・矩形波・三角波を選んで、項数を増やしながら目標の形に近づいていく様子を見てください。

のこぎり波 = (2/π) ( sin θ − sin 2θ / 2 + sin 3θ / 3 − … ) 「n番目の倍音を 1/n の量で交互の符号で混ぜる」というレシピ。無限に足すと完全なのこぎり波になる
フーリエ級数 — サイン波だけで角ばった波形を組み立てる
灰色=目標の波形、水色(薄)=レシピの各項のサイン波、オレンジ=そこまで足した結果。項数を1から少しずつ増やすと、丸い波がだんだん角ばっていきます。
注意 — 角のそばの「ツノ」は消えない(ギブス現象) 項数を増やすほど全体は目標に近づくが、のこぎり波や矩形波のジャンプの近くには高さ約9%のツノ(オーバーシュート)がいつまでも残る。これはギブス現象と呼ばれる、有限項近似の宿命。デモで項数を最大にして角を観察してみよう。

3. 楽器の指紋 — 倍音構成を見比べる

実際の楽器は、それぞれ特徴的な倍音の配合を持っています。ボタンで3つの楽器風の音を切り替えて、倍音バーの形と波形が連動して変わるのを確かめてください。どれも基音は同じ=同じ高さの音です。

楽器の音色比較 — 倍音の配合が波形を決める
左=倍音の量(オレンジ=基音)、右=その配合で合成した波形。フルートはほぼ基音だけ、バイオリンは倍音がぎっしり、クラリネットは奇数番(1・3・5・7)の倍音だけが強いのが指紋です。※実際の楽器を単純化した合成データ。

4. まとめ

一歩先へ — 音色は「時間変化」でも決まる 本物の楽器の音色は、倍音の配合に加えて立ち上がり方(アタック)や減衰など時間変化にも大きく左右される。ピアノの録音を逆再生すると別の楽器に聞こえるのはこのため。スペクトルが時間とともにどう動くかを見る道具はレッスン07のスペクトログラム、そして分解そのものを数学として厳密に行う方法が次のレッスン05・フーリエ変換だ。