センサの世界 — 車の「目」はひとつじゃない
自動運転車はカメラ・LiDAR・レーダーという物理原理の違う3種類の目で世界を見ています。同じ道路が各センサでどう見えるか、夜や雨で何が起きるかを切り替えながら体感し、「なぜ何個も積むのか」を納得します。
1. 三つの「目」 — 同じ道が、こう見える
まずは百聞は一見にしかず。同じ場面(前方に車、右に歩行者と標識)を、カメラ/LiDAR/レーダーで切り替えて見比べてください。さらに晴れ・夜・雨を切り替えると、各センサの得意・不得意がはっきり現れます。
センサ切り替え実験 — 同じシーン、違う見え方
カメラは色も文字も読めるが夜に弱い(無灯火の歩行者がほぼ消える一方、標識は反射で光る)。LiDAR は夜でも同じ正確な距離点群が得られるが色は分からず、雨では点が欠ける。レーダーはぼんやりだが距離と速度が直接わかり、夜も雨もほぼ平気です。
| カメラ | LiDAR | ミリ波レーダー | |
|---|---|---|---|
| 物理原理 | 光を受けるだけ(受動) | レーザーを出して往復時間を測る(能動) | 電波を出して反射を測る(能動) |
| 得られる情報 | 色・形・文字(情報量最大) | 正確な3D距離の点群 | 距離+相対速度(直接) |
| 距離の精度 | △ 推定するしかない | ◎ 数cm級 | ○ 良好 |
| 分解能(細かさ) | ◎ 非常に高い | ○ 高い | △ 粗い |
| 夜間 | △ 光が必要 | ◎ 変わらない | ◎ 変わらない |
| 雨・霧・雪 | △ にじみ・視界不良 | △〜○ 強い雨霧で劣化 | ◎ ほぼ平気 |
| コスト感 | ◎ 安い | △ かつて超高価 → 急速に低価格化 | ○ 安い |
POINT — 弱点の場所がそれぞれ違う
3つのセンサは物理原理が違うので、苦手な状況も違う場所にある。カメラが死ぬ夜でも LiDAR とレーダーは見えるし、レーダーが苦手な「細かい形の識別」はカメラが得意。この「弱点が重ならない」ことが、複数センサを積む最大の理由です。
2. LiDAR — 光の「ものさし」
LiDAR(ライダー)は、目に見えないレーザーパルスを撃ち、反射して戻ってくるまでの時間から距離を測ります。光の速さは一定なので、時間さえ測れば距離が正確に出る — 巻き尺の代わりに光を使うイメージです。
距離 d = c × Δt ÷ 2
c=光の速さ(約30万km/s)、Δt=往復時間。2で割るのは往復だから。1ナノ秒の誤差が約15cmに相当する
これを回転させながら毎秒何十万回も繰り返すと、周囲360°の点群(ポイントクラウド)ができあがります。下のデモでビームの本数と回転速度を変えてみてください。
LiDARスキャン — 回るビームが世界を点で写し取る
薄い線=実際の環境、緑の点=LiDARが測った点。ビーム本数を増やすと点群が密になります。回転を速くすると更新は速いが1周あたりの点はまばらに(発射レートは一定のため)。走行中の車の点群が流れて歪むのは、スキャン中に相手が動くからです。実物は垂直方向に16〜128本のビームを持ち、ここでは簡略化しています。
POINT — 点群は「形と距離の生データ」
点群には色も名前もついていません。「この点の塊は車だ」と意味を与えるのは後段の認識処理(第6回)の仕事。LiDAR の価値は、その材料になる誤差数cmの正確な3D形状を、昼夜を問わず提供できることです。
3. レーダー — 速度が「直接」わかる
ミリ波レーダーは波長数mmの電波を使います。分解能は粗く、形はぼんやりとしか分かりません。それでも全ての量産車に積まれるのは、ドップラー効果で相対速度が一発で測れるからです。救急車のサイレンが近づくと高く、遠ざかると低く聞こえる、あの現象の電波版です。
Δf ≈ 2 vr ÷ λ
Δf=反射波の周波数のずれ、vr=相対速度、λ=波長(77GHz帯で約3.9mm)。周波数のずれを測れば速度が直接出る
ドップラー効果 — 近づく車は赤く、遠ざかる車は青く
自車(下)から出た電波が中央の車で反射して戻ります。近づく車からの反射波は波が詰まり(周波数が上がり)、遠ざかる車では伸びる。この図では近づく=赤、遠ざかる=青、静止物=グレーで塗り分けています(色は本レッスンの表現で、実機の画面色は様々です)。
POINT — 「速度が直接測れる」のありがたみ
カメラや LiDAR で速度を知るには、複数フレームの位置の差から計算する必要があり、ワンテンポ遅れます。レーダーは1回の観測で「あの車は毎秒何m近づいている」が分かるので、自動緊急ブレーキ(AEB)や前車追従(ACC)の心臓部として最適。だからレーダーだけは、ほぼ全ての運転支援車に必ず載っています。
4. どこに何を積む?
実際の自動運転車は、車体のまわりにセンサを貼り巡らせて死角のない視野を作ります。下の俯瞰図でセンサを ON/OFF して、それぞれがどこをカバーしているか、消すとどこに穴が空くかを確かめてください。
センサ配置と視野 — 消すと死角が生まれる
遠方は前方カメラと前方レーダーが細長くカバーし、近距離のぐるり一周は周囲カメラとコーナーレーダー、駐車時の至近距離は超音波が受け持ちます。「死角を赤く表示」を ON にしてからセンサを消すと、どこが見えなくなるかが分かります。
5. なぜ複数積むのか — フュージョンへの伏線
ここまでを一言でまとめると、完璧なセンサは存在しないということです。そこで自動運転車は、性質の違うセンサの情報を重ね合わせて1つの世界像を作ります。これをセンサフュージョンと呼び、第4回で「不確かさを数学的に混ぜる方法(カルマンフィルタ)」として詳しく学びます。
注意 — 悪天候はすべてのセンサの敵
豪雨・濃霧・吹雪では、カメラはもちろん LiDAR も劣化し、頼みのレーダーは分解能が足りません。だから多くのサービスは天候を ODD(運行条件)の制約に含めており、「悪天候でも人間並みに走る」は2026年時点でも未解決の課題です。
一歩先へ — 「カメラだけでいい」論争
「人間は目2つで運転できるのだから、カメラ+AIで十分。安くてどの車にも積める」というカメラ主体路線(テスラが代表)と、「人間と同じ土俵で競う必要はない。冗長性こそ安全の担保」というマルチセンサ路線(Waymo など多くのロボタクシー、LiDAR 標準搭載が広がる中国メーカー)が、2026年現在も並走しています。カメラ路線はコストとデータ量で、マルチセンサ路線は夜間・悪条件の確実性で優位に立ち、決着はついていません。どちらが正しいかではなく「何を根拠に安全と言うか」の設計思想の違いとして眺めるのが公平です。
6. まとめ
- カメラ:情報量最大(色・文字)だが受動式で夜と悪天候に弱い。
- LiDAR:光の往復時間で正確な3D距離。夜も同じ性能。色は分からず、強い雨霧で劣化。
- レーダー:粗いが速度が直接測れて悪天候に最強。全部入りの安全網。
- 弱点が重ならないよう組み合わせ、車体のまわりに死角なく配置する。混ぜ方は第4回センサフュージョンで。