このデモの ODD 定義(例): 高速道路・豪雨でない・夜間の雨でない・100 km/h 以下。走行中に「豪雨」を押すなど ODD を外すと、システムはミニマルリスク動作に移行して減速し、路肩へ寄せて停止します(市街地では路肩がなく車線内停止になる=より危険、という点にも注目)。条件を ODD 内へ戻すと運行を再開します。
POINT — ODD は「限定」ではなく「約束」
ODD を狭く取ることは性能の敗北ではない。「この条件下では人間より安全」という検証可能な約束に責任範囲を絞り込む設計行為であり、ロボタクシーが特定都市・特定天候から始まるのはこのためだ。ODD 逸脱時の MRM までを含めて初めて、約束は閉じる。
3. 統計の壁 — 走らせるだけでは証明できない
「人間並みに安全」を実走行の事故率で統計的に示そうとすると、途方もない距離が必要です。死亡事故は約 1.5億 km に 1件のオーダーでしか起きないため、無事故走行で信頼水準 95% を得るだけで数億 km、「人間より確かに良い」ことを比較で示すには数百億 km 規模が必要になります(RAND の試算が有名)。さらにソフトウェアを更新するたびに実績はリセットされる。そこで実務は、実走行+シミュレーションによるシナリオ網羅の組み合わせに移行しました。危険なパラメータ領域(歩行者の飛び出し速度×遮蔽物距離など)を系統的に振って大量のシナリオを生成し、失敗モードを「距離」ではなく「網羅」で探すアプローチです。
必要走行距離の壁と、シナリオ網羅というもう一つの道
上=対数スケールの距離軸。緑=スライダーの信頼水準で「無事故」を示すのに必要な距離、オレンジ=実車テストの累計(業界最大級で 10⁸ km 台)、水色=シミュレーション累計(10¹⁰ km 台)。チェックを入れると「人間との差」を統計的に示すための距離に跳ね上がります。下=シミュレーションでパラメータを振ってシナリオを大量生成し、失敗(赤)を探す網羅のグリッド。
N = ln(1−C) / ln(1−p) ≈ −ln(1−C) / p
故障率 p(≈1件/1.5億km)を信頼水準 C で棄却するのに必要な無事故走行距離。C=95% で約 4.5億 km(Kalra & Paddock, RAND 2016 の枠組み)
冗長構成では、どれか1つを壊すとバックアップ系が引き継ぎ、故障検知 → 切替 → 縮退運転(60 km/h 制限)→ 路肩停止(最小リスク状態)のシーケンスが走ります。「単一系統構成にする」を押してから同じ故障を注入すると、引き継ぐ相手がなく即座に制御喪失 — 「1つ壊れたら全滅」の危険な構成との違いを比べてください。
5. ミクロな安全の物差し — 衝突余裕時間 TTC
システム全体の話から一段降りて、瞬間ごとの危険度を測る代表的な指標がTTC(Time To Collision, 衝突余裕時間)です。前方の車との距離 d と相対速度(接近速度)Δv から、このまま何秒で衝突するかを見積もります。TTC はリスク評価・自動緊急ブレーキ(AEB)の発動判定・シナリオ評価の合否基準など、あらゆる場面の基礎になります。