1. 脳のまね — ニューロンを「計算式」にする
脳の神経細胞(ニューロン)は、他のニューロンから信号を受け取り、その合計がある程度を超えると自分も信号を出します(発火)。これを最もシンプルな数式に写し取ったものが形式ニューロンで、そこに学習の仕組みを足したものがパーセプトロンです。
下の図で、入力 x と重み w とバイアス b を全部動かしてみてください。重みを大きくすると線が太くなり、マイナスにすると赤に変わります。中央のメーター(加重和 z)が 0 を超えた瞬間、右端のランプが点灯します。
ニューロンの解剖図 — 信号 × 重み → 加重和 → 発火判定
線の太さ=重みの大きさ、緑=プラスの重み(興奮)、赤=マイナスの重み(抑制)。流れる白い粒は信号の強さ。加重和 z がしきい値 0 を超えるとステップ関数の出力が 1 になり、ランプが「発火」します。x₂ を上げると逆に発火しなくなる設定になっているのがポイント(w₂ がマイナスだから)。
z = w1x1 + w2x2 + b → y = 1(z ≥ 0 のとき)/ 0(z < 0 のとき)
重み w が「つながりの強さ」、バイアス b が「発火のしやすさ」を決める
POINT — 重み=つながりの強さ
プラスの重みは「賛成票」、マイナスの重みは「反対票」、バイアスは「発火のハードルの低さ」。学習とは、この数字たちをちょうどよく調整すること。ニューラルネットの学習は、どれだけ巨大になってもこの一点に尽きます。
2. パーセプトロンの正体は「1本の直線」
入力が2つなら、入力の組 (x₁, x₂) は平面上の点として描けます。すると z = 0 になる場所は1本の直線になり、パーセプトロンは「平面を直線で2つに切り、どちら側かを答える機械」だと分かります。この直線を決定境界と呼びます。
論理演算の AND(両方1のときだけ1)と OR(どちらかが1なら1)を、直線1本で作ってみましょう。さっきと同じ w₁, w₂, b のスライダーで直線が動きます。4点すべてに緑のリングが付けば成功です。
決定境界ラボ — 直線1本で AND / OR を作る
青く塗られた側が「出力 1」の領域。オレンジの点は正解が 1、水色の点は正解が 0 のデータです。間違って分類されている点は赤いリングが点滅します。初期状態は OR なら正解ですが AND では 1 点間違い — b を下げて直線を右上に押しやってみてください。
POINT — 線形分離可能
1本の直線(入力が3つ以上なら平面・超平面)で完全に分けられるデータを線形分離可能と呼ぶ。パーセプトロン1個で解けるのは、この種類の問題だけ。ここが後で効いてきます。
3. 間違えたら少し直す — パーセプトロン学習則
重みは手で合わせなくても、機械が自分で見つけられます。ルールは驚くほど単純で、「間違えた点の方向へ、境界を少しだけ動かす」を繰り返すだけ。これが1958年に提案されたパーセプトロン学習則です。
w ← w + η (y − ŷ) x, b ← b + η (y − ŷ)
y=正解、ŷ=いまの出力、η=学習率。正解していれば (y−ŷ)=0 で何も起きず、間違えたときだけ ±1 となって正解の方向へ動く
下のデモでは、誤分類された点(オレンジのリングが光る点)が選ばれるたびに、境界線がガクッと動きます。AND や OR ではやがて全点正解になり、線がピタッと止まります(収束)。では XOR に切り替えると…? 反復カウンタを見ながら待ってみてください。
パーセプトロン学習則 — 間違えるたびに直線が動く
各コーナーの周りに 5 点ずつ、計 20 点のデータ。AND / OR は十数回の更新で収束しますが、XOR はいつまでも直線が暴れ続けます。どこに直線を置いても、対角に並んだオレンジの点のどちらかが必ず反対側に取り残されるからです。
XOR は「どちらか片方だけが 1」のとき 1 になる演算です。4つの点を眺めると、出力 1 の点が対角線上に並んでいます。この配置は、どんな直線を引いても必ずどちらかの点が間違う — つまり線形分離不可能です。
注意 — パーセプトロンの限界と、その突破口
ニューロン1個では XOR は永遠に解けない。1969年に Minsky と Papert がこの限界を数学的に示し、ニューラルネット研究は一度「冬の時代」に入った。突破口は層を重ねること — 直線を2本引いて組み合わせれば XOR は解ける。これが次のレッスン「多層パーセプトロン」の主役です。
4. まとめ
- パーセプトロン=入力×重みの合計+バイアスを、しきい値と比べるだけの人工ニューロン。
- 重みは「つながりの強さ」、バイアスは「発火のしやすさ」。2入力なら決定境界は1本の直線。
- 学習則:間違えた点の方へ境界をずらす、をひたすら繰り返す。線形分離可能なデータなら必ず収束することが証明されている(パーセプトロン収束定理)。
- XOR は直線1本では分けられない → 多層化(MLP)が必要。これが深層学習への第一歩。
一歩先へ — 1958年、ローゼンブラットの熱狂
パーセプトロンは心理学者 Frank Rosenblatt が1958年に発表し、ソフトウェアではなく配線とモーター式可変抵抗器でできた専用機械「Mark I Perceptron」として実装された。当時のニューヨーク・タイムズは「歩き、話し、見て、書き、自己を複製し、自己の存在を意識する電子計算機の萌芽」とまで報じた。過熱した期待は1969年の Minsky & Papert『Perceptrons』で急冷され、最初のAI冬の時代へ。しかし多層化と誤差逆伝播法(1986年)で復活し、現代の LLM も突き詰めればこの「1個のニューロン」の子孫である。