モルフォロジー — 膨張と収縮で形を整える

二値画像を「点の集合」とみなし、小さな型 — 構造要素 — を当てながら形を太らせたり痩せさせたりする。それがモルフォロジー(数理形態学)です。ノイズ除去・穴埋め・輪郭抽出まで、明るさのフィルタとはひと味違う「形の演算」を、1画素ずつ動かして掴みます。

1. 画像を「集合」として見る

二値画像は、前景(白)画素の座標を集めた集合 A とみなせます。モルフォロジーは、この集合に小さな図形 B(構造要素、SE)を重ねて行う演算の体系です。構造要素には 3×3 の正方形・十字・円盤などがよく使われます。

基本演算は2つだけ。構造要素を出力画素の位置に置いて、

A ⊕ B = { z | Bz ∩ A ≠ ∅ } ,  A ⊖ B = { z | Bz ⊆ A } Bz は構造要素を位置 z に置いたもの。⊕ が膨張、⊖ が収縮。膨張は近傍の max、収縮は近傍の min を取る演算とも書ける
POINT — 構造要素は「筆」であり「型抜き」 膨張では B は形をなぞって太らせる筆、収縮では B が収まらない部分を削り落とす型抜きとして働く。B の大きさと形が「どのスケールの構造を操作するか」を決める。3×3 なら1画素分、5×5 なら2画素分の太り/痩せになる。

2. 走査を1画素ずつ見る — 膨張と収縮

下のデモでは、文字「A」+孤立ノイズ点+横棒の中の小さな穴、という二値画像の上を構造要素が走査していきます。膨張ではノイズ点まで太って塊になり、穴が埋まる。収縮ではノイズ点が消える代わりに線が痩せ、穴は逆に広がる — この非対称性を確かめてください。

構造要素の走査 — 出力が1画素ずつ決まっていく
オレンジ枠=構造要素、白枠=いま判定中の画素。出力側の色:青=入力と同じ前景、緑=膨張で増えた画素、赤茶=収縮で削られた画素。「+1画素」でステップ実行、構造要素を 5×5 / 7×7 にすると効果が一気に強まります(細い線は収縮で消滅!)。
注意 — 膨張と収縮は互いの逆演算ではない 収縮してから膨張しても、消えたノイズ点や切れた細線は戻らない。一度失われた情報は復元できない。ただしこの「戻らなさ」こそが使いどころで、それを積極的に利用するのが次のオープンとクローズ。

3. オープンとクローズ — 順番がすべて

膨張と収縮をどの順に組み合わせるかで、性質の違う2つの演算が生まれます。

オープン: A ∘ B = (A ⊖ B) ⊕ B ,  クローズ: A • B = (A ⊕ B) ⊖ B オープン=収縮→膨張:構造要素より小さい前景(点ノイズ・ヒゲ)を除去。クローズ=膨張→収縮:構造要素より小さい穴・切れ目を充填

先に収縮すればノイズ点は消え、後の膨張で本体の太さだけが戻る(オープン)。先に膨張すれば穴や切れ目が埋まり、後の収縮で太さだけが戻る(クローズ)。下のデモで2段階の変化を並べて見比べてください。

オープン vs クローズ — 2段階アニメーション比較
構造要素は 3×3 固定
左=オープン(収縮→膨張)、右=クローズ(膨張→収縮)。緑=元画像に対して増えた画素、赤茶=減った画素。オープンではノイズ点が消えても穴はそのまま(むしろこじ開く)、クローズでは穴が埋まってもノイズはそのまま — 目的で使い分けます。
POINT — 使い分けと冪等性 白い点ノイズ(前景側のゴミ)にはオープン、黒い穴・欠け(背景側のゴミ)にはクローズ。両方あるなら「オープン→クローズ」の順に掛けるのが定石。またどちらも冪等(べきとう):同じ演算を2回掛けても結果は1回目と変わらない。「構造要素より小さいものを取り除く」というふるい分けが1回で完了するため。

4. 応用 — 輪郭抽出とお絵かき実験

膨張・収縮は差を取ると輪郭になります。1画素ぶん太らせた画像から元画像を引けば、境界の外側1周だけが残る — エッジ検出(第6章)とは別ルートの、形からの輪郭抽出です。

β(A) = (A ⊕ B) − A 外部輪郭。A − (A ⊖ B) なら内部輪郭。収縮を限界まで繰り返して「骨」だけ残す発想が細線化・スケルトンにつながる

最後は自由実験です。マウスで二値画像を描いて、各演算がどう働くか確かめてください。細い線を描いて収縮させる、点々を散らしてオープンする、輪をわざと切ってクローズする — 手を動かすと構造要素の「粒度感」が体に入ります。

お絵かきモルフォロジー — 描いて、試す
左のパネルをドラッグすると描画、前景画素から始めると消しゴムになります。右は選択中の演算の結果(緑=追加、赤茶=削除、輪郭抽出ではオレンジ=輪郭)。サンプル図形には切れ目つきの輪・穴あきブロック・ノイズ点が入っています。
一歩先へ — グレースケールへの一般化 膨張=近傍 max、収縮=近傍 min と読み替えると、モルフォロジーは濃淡画像にもそのまま使える。「元画像 − オープン結果」はトップハット変換と呼ばれ、照明ムラのある背景から小さな明るい構造だけを取り出す定番技。ほかにも距離変換・スケルトン・粒度分析(granulometry)など、形を測る道具箱が広がっている。

5. まとめ