パケット交換 — 刻んで混ぜて、回線を分け合う

電話網は、通話のあいだ1本の回線を丸ごと予約していました(回線交換)。インターネットはデータを小さなパケットに刻み、1本のリンクを大勢で分け合います(パケット交換)。なぜ後者の方が回線をずっと有効に使えるのか — 統計多重のからくりを、流れるパケットと利用率メーターで見比べます。

1. 回線交換 — 専用線を丸ごと予約する

昔の電話は、通話を始めると発信者から着信者まで1本の道を確保し、切るまで独占しました。確実ですが、黙っている間もその回線は予約されたまま。会話には沈黙や息継ぎが多く、確保した容量の大半は使われずにむだになります。

回線交換 — 予約したのに使わない「むだ」
オレンジ枠が「予約済みの回線」。実際にデータが流れるコマ(明るいセル)だけが役に立ち、むだのコマは予約されているのに誰も使えません。利用率メーターは、送る割合を下げるほど下がります。
回線交換の弱点 予約はピーク(最大速度)に合わせて取る必要があります。平均的にはほとんど空いていても、その空きを他の誰も使えない。バースト的(送るときはドッと、あとは沈黙)な通信ほど、むだが大きくなります。

2. パケット交換 — 1本のリンクに混ぜて流す

パケット交換では、複数の通信(フロー)のパケットを同じ1本のリンクに順番に載せて送ります。あるフローが黙っている隙に、別のフローのパケットが入り込む。こうして空き時間を埋め合い、リンクを高い割合で使い切ります。

パケット交換 — 隙間を他のフローが埋める
上の3本が独立したフロー(色分け)。下の1本が共有リンクの中身で、各コマは「その瞬間に送れたフロー」の色になります。1本ずつ見ると隙間だらけでも、混ぜると共有リンクはよく埋まります。
POINT — 統計多重(statistical multiplexing) 複数のバースト的な通信は同時にピークになりにくい。だから「みんなが同時に喋る前提」で容量を予約する必要はなく、空いた分を融通し合える。この、確率に頼った賢い相乗りが統計多重です。パケット交換の効率のいちばんの源。

3. 統計多重の効き目 — フローが増えるほど埋まる

1本のリンクを分け合うフローが増えるほど、「誰かは送っている」確率が上がり、リンクの利用率は伸びます。回線交換はどれだけフローが増えても、1本を独占する通信の割合ぶんしか使えません。両者を並べて比べてみましょう。

利用率くらべ — 回線交換 vs パケット交換
各フローは平均で 25% の時間だけ送るとします。上のパイプ(回線交換)は1本が独占するので利用率は 25% のまま。下のパイプ(パケット交換)はフローを増やすほど埋まり、利用率 ≈ min(100%, フロー数 × 25%) に近づきます。
パケット交換の利用率 ≈ min( 100% , フロー数 × 各フローの利用率 ) 回線交換の利用率は「各フローの利用率」で頭打ち。混ぜるほどパケット交換が有利になる(統計多重利得)

4. 共有の代償 — 混みすぎると待ち行列が伸びる

相乗りはタダではありません。たまたま多くのフローが同時にドッと送ると、リンクが処理しきれず、パケットはルータの待ち行列(キュー)に並んで待たされます。負荷が容量に近づくほど、行列=遅延は急激に伸びます。

負荷と待ち行列 — 100%に近づくと発散する
左から到着したパケットがサーバ(リンク)で1つずつ送出されます。負荷 ρ を上げると待ち行列が伸び、平均遅延メーターが跳ね上がります。ρ が 1 に近づくと行列は理論上無限大へ。
注意 — だから輻輳制御がいる 行列が伸びすぎるとバッファが溢れ、パケットが捨てられます(パケットロス)。みんなが遠慮なく送ると全員が遅くなる「混雑」。これを防ぐため、送信側が送る量を賢く加減するのが輻輳制御(このカテゴリの後の回)。パケット交換の効率は、こうした制御とセットで初めて活きます。

5. まとめ — 刻むから分け合える

一歩先へ — なぜインターネットはパケット交換を選んだか 多種多様なデータ(メール・Web・動画・音声)を、まばらに大量の利用者へ効率よく届けるには、統計多重の効くパケット交換が圧倒的に有利でした。予約も交換機の集中制御もいらず、各ルータが自律的に転送するだけ — この単純さと効率が、世界規模への拡張を可能にしました。次回は、刻んだパケットに階層的なヘッダを付けて複雑さを分割する「階層モデルとカプセル化」に進みます。