重ね合わせと測定 — 確率振幅の世界

量子ビットは0と1を「同時に」持てる — でも読み出すと、答えは必ず0か1のどちらか一つ。この不思議をつなぐのが確率振幅と測定による収縮です。ルーレットを回しながら、量子力学いちばんの急所を体感しましょう。

1. 確率振幅 — 「重み」には符号がある

量子ビットの状態は、|0⟩ と |1⟩ にそれぞれ振幅と呼ばれる数 α, β を添えて書きます(このページでは話を簡単にするため、α, β は実数とします)。

|ψ⟩ = α|0⟩ + β|1⟩ α, β が確率振幅。α² + β² = 1 を常に満たす(全確率が1になるため)

大事なのは、振幅は確率そのものではなくマイナスにもなれること。確率になるのは2乗したときです。これをボルンの規則と呼びます。

P(0) = |α|²  P(1) = |β|² 測定して 0 が出る確率は振幅 α の2乗。符号(位相)の情報は確率からは消える

下のデモで角度θを動かすと α = cos θ, β = sin θ が変わります。「1回測定」を押すと、確率の円グラフの上でルーレットが回り、0 か 1 のどちらかに収縮します。

確率振幅と測定 — 振幅バーとルーレット
左=振幅バー(±符号つき)、右=確率の円グラフ。θ=135° にすると β がマイナスになりますが、円グラフは θ=45° と同じ— 符号は確率に現れません(後の「干渉」の章でこの符号が主役になります)。収縮後にもう一度測定しても、結果は変わりません。
POINT — ボルンの規則 測定結果は確定的に決まっているのではなく、確率 |α|², |β|² で選ばれる。そして測定した瞬間、状態は出た結果(|0⟩ か |1⟩)そのものに変わってしまう。これが「測定による収縮」。

2. 統計で見える量子状態 — 大数の法則

1回の測定からは「0 が出た」という1ビットの情報しか得られません。では振幅 α, β の値はどうやって知るのか? 答えは同じ状態を何度も用意して、何度も測ること。出た回数の割合が、理論確率 |α|², |β|² に近づいていきます。

測定を繰り返す — ヒストグラムが理論値に収束する
左=測定結果のヒストグラム(破線=理論確率)、右=「0 が出た割合」の推移(横軸は対数)。回数が少ないうちは大きくブレますが、増やすほど理論値に張り付いていきます。θ を動かすとカウントはリセットされます(別の状態を測り直すため)。
注意 — 「1000回測定」は状態を1000回用意している 一度測定した量子ビットは収縮してしまうので、同じものを測り直しても新しい情報は出ない。上のデモも実機も、毎回まったく同じ手順で状態を作り直してから測っている。量子計算の結果が「確率分布」として得られるのはこのため。

3. 収縮は巻き戻せない — 読むと壊れる情報

測定のもう一つの顔は不可逆性です。重ね合わせ |ψ⟩ = 0.71|0⟩ + 0.71|1⟩ を測って 0 が出たら、状態は |0⟩ に確定。元の重ね合わせに戻す方法はもうありません。α と β が持っていた情報は、この瞬間に失われます。

収縮の不可逆性 — 測定前 → 測定 → 測定後
測定前の矢印は |0⟩ と |1⟩ の「あいだ」でゆらいでいます。測定の瞬間(フラッシュ)に軸へ倒れ込み、以後は何度「測定する」を押しても同じ結果。灰色の破線=失われた元の状態です。

ここで測っているのは「|0⟩ か |1⟩ か」という測定基底です。実は別の基底(たとえば |+⟩ か |−⟩ か)で測ることもでき、同じ状態でもどの基底で測るかによって確率分布が変わります。「測定=状態への質問。質問の仕方で答えの出方が変わる」と覚えてください。

一歩先へ — 複製不可能定理(No-Cloning) 「壊れるなら、測る前にコピーを取っておけば?」— それが原理的に不可能であることが証明されている(複製不可能定理)。未知の量子状態の完全なコピーは作れない。この「読むと壊れる・コピーできない」性質は弱点である一方、盗聴が必ずバレる量子暗号の土台にもなっている。

4. まとめ — 量子情報の3つのルール

次章では、測定の「前」に状態を自在に操る道具 — 量子ゲートを学びます。